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チャプター8: ベイビー・ロールスの進化
1922年に登場した“ベイビー・ロールス”ことロールス・ロイス20HPは、商業的には大きな成功を得ることができた。しかし、6気筒3.15Lのエンジンのキャパシティを超えたリムジーンやランドレーなどの重いボディを架装したいとするリクエストがあとを絶たず、ロールス・ロイス社では「規定以上の重いボディを架装した車両にはメーカー保証を与えない」とする通達まで出すに至ったのだが、それでも顧客の要望が完全に止むことはなかったという。そこで、20HPについて回ったアンダーパワーの問題を抜本的に解決するため、ファンタムⅡの発表と時を同じくする1929年9月にデビューしたのが、第二世代のベイビー・ロールスこと“20/25HP”。従来型20HPに小改良を加えたシャーシーに、排気量をスケールアップした直列6気筒OHVユニットを搭載したモデルである。
20/25HPのエンジンは、20HP用エンジン(ボア76.2×ストローク114.3mm)のボアを82.6mmに拡大、ストロークはそのままに3669ccの排気量を得たものである。また20HP用エンジンには、クランクシャフトのねじり剛性不足に伴う共振の問題も存在したのだが、20/25HPの開発に際して、R-R技術陣は実に38種類もの改良型クランクシャフトおよび改良型のメインベアリング、フライホイールを試作。それらを組み込んだプロトタイプを製作した。そして、当時まだ闘病中にあったヘンリー・ロイスから助言を得るべく、彼の療養地である南仏に行く道すがら、フランスの高速道路“オートルート”にて秘かにロードテストを重ねていた。このように、ロイスと配下のエンジニアたちの尽力もあって、なんとか3500rpmまで安全に回せるようになった結果、前述の排気量アップと合わせて20/25HPの実質的なパワーは格段に向上することになったのである。
一方、シャーシーに関しては40/50HPファンタムⅡを忠実に縮小したもので、ホイールベースは20HPと同じ129インチ(1930年まで:それ以後は132インチに延長)。もちろん、イスパノ・スイザから特許を購入していたギアボックス駆動メカニカルサーボ付のブレーキや、ファンタムⅡ以来の一括給油システムも採用されている。
ボディについては、ファンタムⅡと同じく1932年から準スタンダードボディが指定された。1934年発行のカタログでは、軽快なオープントゥアラーからフォーマルなランドーレットまで6種類の準スタンダードボディがラインナップしていたほか、これもファンタムⅡと同様にフルオーダーのボディを注文することも可能であった。
こうして誕生に至った20/25HPは、20HPと同じくローリングシャーシーで£1100、準スタンダードのパークウォード製サルーンでは£1555のプライス付けがされていた。そして、1936年までの7年間に3827台が製作されることになるのである。
一方、1936年に発表された ロールス・ロイス25/30HP は、従来の20/25HPに代わる第3世代の“ベイビー・ロールス”。20/25HPに進化した際のモデルチェンジと同様、エンジンのスケールアップが主な変更ポイントであった。したがって、ベイビー・ロールスとしては初代に相当する20HPがデビューして以来、折を見てアップ・トゥ・デート化が図られつつも基本的には原型のまま継承されてきたラダーフレーム+前後リーフリジッド・アクスルのシャーシーは、25/30HPでも事実上キャリーオーバーされることになった。パワーユニットは20/25HPと基本構造を一にする水冷直列6気筒OHVだが、排気量は従来の3680ccからボアを89.0mmまで延長する(ストロークは114.3mmで不変)ことで4257ccまで拡大されていた。また、それまでホワイトメタル製だったメインおよびコンロッドのベアリングは、高速での耐久性アップのため、アルミ合金をベースとしたものに変更された。さらにキャブレターも、それまでのロールス・ロイス自社製のもの(いわゆる“ロイスキャブ”)からゼニス社製に変更、レイアウトもシンプルなダウンドラフトとなった。新エンジンのパワースペックは、当時のR-Rの慣例に従って未公表であるが、パフォーマンスは全般的にアップ。このクラスの高級車としては、なかなかの高性能車と見なされていた。25/30HPの生産期間は1939年までの3年間と短かったが、1201台が製作された。
ちなみに、 吉田茂元首相が神奈川県大磯町にある私邸から東京に通うための足 として愛用していたことで有名なロールス・ロイスは、この 25/30HPのフーパー製スポーツサルーン 。女婿である麻生太賀吉氏が英国で購入したのち日本に持ち帰り、日本国内では吉田元首相自身および麻生家が長らく愛用していたという。
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