ワクイミュージアム、ペブルビーチに堂々のデビュー
Wakui Museum 館長 涌井 清春
ペブル・ビーチ コンクール・デレガンス2019をふりかえって
涌井です。
ペブルビーチから戻りました。詳しくは今回アメリカに帯同した当館キュレーターの武田公実 君が連載レポートいたします。
まず世界最高のクラシックカーの舞台に、見物ではなく、参加できたことは感慨深いことでした。きっと将来のワクイミュージアムにも役立つフィードバックができると思います。
はじめに、ミュージアムの "Gairn 3L" 、一見地味なクルマで、私も醜いアヒルの子と呼んでいましたが、今回 "Old Mother Gun" よりもこちらが評価されて展示となりました。今回 ル・マン優勝車はなぜか1台も展示がなかったです。"Gairn" はシャシー、ボディともにオリジナルで世界最古と、ベントレー専門家の本にも巻頭で紹介されていますので、そうしたことも後押しとして判断材料になっているのかと思います。
さらに、私が買いつけた "Gairn 3L" の元オーナーが、ポルトガルから見に来てくれて、感動の出会いがありました。当時はスウェーデンだったのですが、今はリタイアしてポルトガルに住んでいるそうです。嬉しい出会いでした。
1,000台以上のエントリーから200台に絞るために4ヶ月をかけて出品車が決まる。展示の仕方、その週のモントレイ全体にあちこちのオークションや、ラグナセカの走行などイベントがあり、最後にゴルファーなら一度はプレイしたいという美しいペブルビーチの18番ホールの展示に集合し、観客数もすごいものになる。クラシックカー文化が集約されたような別世界でした。ワクイミュージアムの顧客のクルマを出せるようになりたいなと思いました。
まだ暗い朝6時にガレージから18番ホールに向かって、名車が続々とランウエイを歩くように進行していきます。
本で見たような車を、有名人オーナーも自分で運転しています。夜明けなのにそれを見守っている観客がすでに5千人から1万人います。ベントレーだけでもエンビリコスの車、8リッター、ブロワー、幻の車と言われたグラバーのS3コンチネンタルが観客に見送られ18番ホールに向けて一緒に走っています。夢のような光景でした。
レストアの腕ではウチも負けてはいません。ペブルビーチを目指せる顧客の車を仕上げることも夢ではないと思いました。今回の "Best of Show" は、ペニンシュラホテルのオーナーの所有する希少なベントレー8リッターでした。100周年記念なのでベントレーに花を持たせたのかとも思いますが、競ったミウラとどうやって一番を決められるのか、時代も違うし100人のジャッジの判断も割れたような気がします。
車という趣味を媒介にして、もっとも美しい場所で、誰もが親しく談笑すること。入場切符は最高30万円というこのイベント・ビジネスを60年かけて育てたこと。車以外にも感心は尽きません。
客層の多さ、富裕層の厚さ、展示場の良さ。スケールは違いますが、これからのワクイミュージアムへの大きなヒントになったと思います。
(涌井 拝)
ペブル・ビーチ コンクール・デレガンス2019 レポート

かねてからお伝えしておりましたとおり、私どもワクイミュージアムは所蔵車の1921年型ベントレー3Litre Gairn製ツアラーとともに、第一回目から継続されているものとしては世界最古、そして世界最高峰のコンクールとも称される「ペブルビーチ・コンクール・デレガンス」に参加。念願の世界デビューを果たすことに成功いたしました。
2019年8月18日(日)、まだ日も明けきらない時刻から、北米カリフォルニア州モントレー半島の一角を占める世界的ゴルフリゾート、USオープンの会場としてもしばしば使用される名門「ペブルビーチ・ゴルフリンクス」には、既に驚くほどの大観衆が集まっていました。
その傍ら、私たちのベントレー3Litreは、海外からのエントリー車両が集められるインターナショナルテントから出発。満場のギャラリーが待ち受ける中、涌井館長夫妻とともにペブルビーチ18ホール近辺に設けられたコンクール会場へと進み、大喝采を受けることとなりました。
ペブルビーチ・コンクール・デレガンスでは、毎年千数百台にも及ぶエントリー希望がある中、実際に正式招待されるのは約200台のみ。特に今年100周年を迎えたベントレーについては特別な車たちが揃い踏みとなりましたが、そんな世界のひのき舞台にあって私たちの3Litreがともに展示されるさまは、まさに感動的なものでした。
私たちは今回コンクールの選考は受けないこととしたものの、世界的にも希少なベントレー3Litreのオリジナルボディ車両、しかも1970年代以降長らく国際的な表舞台から姿を消していたGairn製ツアラーの登場は、ジャッジ(特別審査員)の面々や全世界から会場に訪れたベントレーの有識者たちにとっても極めて興味深いできごとだったようです。
そして、この車とともに世界デビューを果たしたことにより、私たちは国境や時空を超えた、素晴らしい出会いの数々を体験することができたのです。
ワクイミュージアムでは、今回のエントリー車両ベントレー3Litreがアメリカから帰国次第、報告会を兼ねた企画展を加須にて行うことを予定しております。詳細が決定しましたら、当公式WEBページにてお知らせいたしますので、お楽しみにお待ちくださいませ。
参加車両:1921 Bentley 3Litre Tourer by Gairn
1919年に発表、1921年から市販が始まったベントレー「3Litre」の生産19号車。この時代の3Litreの多くが「Vanden Plus:Le Mans」スタイルなどのボディを新たに与えられている事例が多い中、新車として生産された際にコーチビルドされたボディが維持されているものとしては、おそらく世界最古のベントレー市販車の一台と目されています。
スコットランド・エディンバラに本拠を構えていた、あまり知られていない馬車由来のコーチビルダー「Gairn」が個性的なボディを製作。1921年12月、同じエディンバラの顧客にデリバリーされたとの記録が残っています。
それから長らくスコットランドで過ごしたのち、イングランドからスウェーデンを経て、日本のワクイミュージアムに所蔵されることになりました。

明け方のインターナショナルテントから出発する1921年型ベントレー3Litre Gairn製ツアラーと涌井館長。この日のために、数日前から動態確認と最終仕上げを行っていた。

ペブルビーチ・ゴルフリンクスのシンボル的なクラブハウス 「The Lodge」 前を通過。撮影している手前側には、早朝から大観衆が待ち構えている。

いよいよ18番ホールのコンクール会場へと歩みを進めると、満場のギャラリーたちがカメラを向ける。

ようやく夜の明けた展示スペースに、ベントレー3Litreを設置。

数多くのギャラリーの訪問を受けた中、最も印象的だったカップル。ご自身でデザイン・製作したというベントレーのドレスを身にまとった奥さまは、コンクール会場の津々浦々で人気者だった。

ワクイミュージアムとは長年のビジネスパートナーである、英国 「Frank Dale & Stepsons」 社の若き支配人、ジャイルズ・クリックメイ氏とも対面。同社がお得意さまとともにエントリーさせた、ベントレー4 ¼ Litreヴァンデン・プラ製ツアラーの前で記念撮影を行うことができた。
今年のペブルビーチ・コンクールについて

第一回目から継続されているものとしては世界最古、そして世界最高峰のコンクールとも称される「ペブルビーチ・コンクール・デレガンス」は、毎年夏にアメリカ合衆国カリフォルニア州モントレー半島を舞台に、丸々一週間に渡って開催されるクラシックカー・イベント群「モントレー・カーウィーク」において中核を成す名門中の名門イベントです。毎年千数百台にも及ぶエントリー希望が殺到する中、実際に正式招待されるのは約200台のみ。特に今年100周年を迎えたベントレーについては、約50台もの特別なモデルたちが勢ぞろいしたことは、全世界のベントレー愛好家の間でも大きな話題となりました。
アメリカを代表する名門コース「ペブルビーチ・ゴルフリンクス」18番ホール周辺のコンクール会場では、こと今年に限ってはベントレーこそが主役でした。「F1:3Litre」~「F6:POSTWAR」まで6つのクラスには全て「BENTLEY CENTENNIAL(ベントレー100周年)」のタイトルが掲げられ、例えば「41/2Litre」では、ティム・バーキン卿がル・マンで戦った有名なブロワー。「61/2Litre」では、ベントレーボーイズの代表格、ウォルフ・バーナート大尉がフランスの寝台特急とのスピード競争で勝利した記念に製作した「スピードシックス ブルートレイン・クーペ」。
「Derby」クラスでは、第二次大戦後のル・マンで活躍した「エンブリコス・クーペ」。そしてR-Typeコンチネンタルの有名なプロトタイプ、BDC元会長スタンリー・セジウィック氏が長らく愛した「OLGA(オルガ)」など、これまで書籍でしか見たことのなかったような素晴らしいベントレーの歴史的遺産たちが一堂に会しました。そんな世界のひのき舞台にあって私たちワクイミュージアムが所蔵する「3 Litreゲイルン製ツアラー」がともに展示されるさまは、本当に感動的な光景でした。
この日のクライマックスとなったのが、この日の午後に厳かながら賑々しく執り行われたコンクール表彰式。全29のクラスで第三位から一位まで3台が順番にステージに上り、満場のギャラリーから拍手喝采を受ける。また特別賞も数多く用意され、ペブルビーチに相応しい名車たちが、続々と登壇してゆきます。
そして、各部門の第一位から選ばれるコンクール最高位「Best of Show」の発表に向けて、最終候補に残った4台の至宝がステージの袖に整列。その中から花火と紙吹雪の歓迎を受けつつゆっくりと登壇したのは、当社にとっては大切なお客さまである「ザ・ペニンシュラ東京ホテル」の社主であるマイケル・カドゥーニー卿の愛車、ベントレー8Litreガーニー・ナッティング製スポーツツアラーだったのです。
私たちにとっても、この上なく嬉しいサプライズとともに幕を閉じた「ペブルビーチ・コンクール・デレガンス2019」。これからは当社のお客さまにも、この世界最高のステージを体感していただきたいと切に願っております。

ベントレーが主役となった今年のペブルビーチでは、全世界から名車が登場。ティム・バーキンのル・マン・ブロワーも注目を集めた。

かの有名なベントレー・スピードシックス ガーニー・ナッティング製「ブルートレイン・クーペ」。

ペブルビーチでは常連とも言われる「エンブリコス・クーペ」の美しい姿が見られたことも、僥倖の一つだろう。

こちらも我々日本人ベントレー愛好家にとっては、書籍以外では見られる機会の少ないOLGA。「BENTLEY CENTENNIAL POSTWAR」クラスで第一位となった。

1990年代の一時期、日本に生息していたS3コンチネンタル・クラバー製ドロップヘッド・クーペと、実に四半世紀ぶりの再会を果たすことができた。

今年のペブルビーチ・コンクール最高位「Best of Show」に選ばれたベントレー8Litre Sports Tourer by Garney Nuttingと、オーナーのマイケル・カドゥーニー卿(手前の小柄な紳士)。
ペブルビーチの感動的な出会い

初めての参加ながら素晴らしい感動と出会いの連続だった、今回の「ペブルビーチ・コンクール・デレガンス」。中でも最も私たちを感動させてくれたのは、この日の午後に起こった出来事でした。我々のベントレー 3 Litreゲイルン製ツアラーを、イングランドで1970年代まで所有していた元オーナー、J.G.スミスさんが我々の参加を聞きつけて、会場の展示スペースまで訪ねてきてくれたのです。
私たちのベントレー 3 Litreは、市販が始まった1921年に生産された19号車。この時代の3Litreの多くが「ヴァンデン・プラ」社製の「ル・マン」スタイルなどのボディを新たに与えられている事例が多い中にあって、新車として生産された際にコーチビルドされたボディが維持されているものとしては、おそらく世界最古のベントレーのひとつと目されています。
この個性的なスキッフ(小舟型)ボディを製作したのは、スコットランド・エディンバラに本拠を構えていた、あまり知られていないコーチビルダー「ゲイルン(Gairn)」。1921年12月、同じエディンバラの顧客にデリバリーされた。長らくスコットランドで過ごしたのち、イングランドからスウェーデンを経て、日本のワクイミュージアムに所蔵されることになりました。
J.G.スミスさんは、スコットランドからイングランドに移された当時のオーナー。ポルトガルの豪壮な古城に住むようになった今でもベントレー 41/2 Litreを愛用し、今年コンクールと併催された「Tour d'Elegance」にも参加したとのこと。かつての愛車3 Litre Gairnとは約半世紀ぶりの再会ながら、当時の記憶はとても鮮明でした。
ご自身の手でレストアする際に、世界で唯一、そして馬車時代の古いコーチワーク技術で創られたゲイルン製ボディを、文化的見地から後世に残そうと決意したことや、オリジナルカラーがブルーだったこと。あるいは、キャブレターやマグネトーを1921年当時のオリジナルスペックに戻したことなどを、まるで昨日のことのように語りながら、とても感激されていたご様子でした。
そして、新旧オーナーで固い握手を交わすことができた涌井館長にとっても、とても感動的な出会いとなったのです。
まさしく白日夢のごとき出来事が次から次へと起こった「ペブルビーチ・コンクール・デレガンス」。この素晴らしい感動を、これからワクイミュージアムに訪れるお客さまたちにお伝えしてゆくことが、私たちの責務と考えています。

ペブルビーチ「F1クラス(3 Litre)」の展示スペースまで訪ねてくださった、ベントレー 3 Litre Gairnの元オーナー、J.G.スミスさん。

英国・ヨーロッパにおける当社のエージェント、ブライアン・ハウザムさんが、このベントレー 3 Litre Gairnに関するエピソードを、スミスさんに質問してくれた。

新旧オーナー共通の「愛車」であるベントレー 3 Litre Gairnのコックピットに収まってもらい、記念写真を撮ることに。

3 Litre Gairnの新旧オーナーが、固い握手を交わす感動的な光景。
(文・写真:武田 公実)
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