涌井清春ヒストリー
「私の半生」

最終回

コロナ禍とこれからのクラシックカー

新型コロナウイルスによる政府の緊急事態宣言を受けて、ワクイミュージアムもしばらく臨時休館を続けていました。現在は、それも明けて、営業を再開しています。
「ワクイミュージアムも、コロナで大変でしょう?」
休館中には、そんなご心配もいただいていました。クラシックカーの楽しみなどは、“不要不急”の最たるものだからです。

休館中には、お客さまからの問い合わせが増えました。コロナ禍によって、多くのお客さまがご自分とクラシックカーのあり方について考え直されているようです。
「もし、自分が新型コロナに感染し、重症化してしまったら、とてもクルマを楽しむことなどできないだろう」
ウチのお客さまは比較的年齢層の高い方々が多いので、ご自身の健康については皆さん人一倍お気を付けてお過ごしです。
「以前から、漠然と“自分は何歳ぐらいまでクルマを保有して運転を楽しむことができるのだろうか?”とは考えてきました。いつかは、どなたかクルマの価値を共有できる方に譲り渡さなければならない。そう考えていました」

以前にお話ししました通り、クラシックカーは人類全体の宝であるわけだから、オーナーは自分で所有しないのならば、次のオーナーに渡さなければなりません。機械遺産、産業遺産を継承するために、それは半ば義務のようなものであります。ワクイミュージアムは、そのお手伝いをして成り立っているのだと何度も話してきました。コロナ禍によって、その流れが一気に加速されました。
「幸いに、自分はいま健康でコロナに感染もしていないけれども、いつか自分にも寿命が来る。その時を漫然と待つわけではなく、むしろ健康なうちに積極的に次の持ち主に継承するべきだと思うようになった。それがクルマのためである。どうすればよいだろうか?」
ロールスロイスのクラシックカーを複数台お買い上げいただいたお客さまから、思い詰めたような口調のお電話をいただきました。同じようなご相談を続けて受けています。
「いつかは手放さなければならないのだし、このクルマには今までたっぷりと楽しまさせてもらった。もし、コロナが収束して状況が好転して、また次のクルマを持てるようになったら、その時はその時で考えたら良いではないか? 涌井さん、どなたか良い人を紹介して下さい」
そのようにして、ロールスロイスやベントレーのクラシックカーを手放そうとされる方が少なくありません。次のオーナーさんを紹介したり、あるいは当ミュージアムで引き取らさせていただいたりしています。

同じように、コロナ禍による先行き不透明感から、それまで所有していたロールスロイスやベントレーのクラシックカーを手放し、運転資金を得ようとされている法人のお客さまもいらっしゃいます。非常時における企業としては当然の対応でしょう。以上は、コロナ禍によってクラシックカーの所有を止め、然るべき次の持ち主に継承したいという動きです。

しかし、興味深いことに手放そうという動きとは反対の動き、つまりクラシックカーを手に入れたいという動きも顕著なのです。そのひとつは、若い人からクラシックカーについての相談を受けることが増えました。コロナ禍と関係しているのかどうかわかりませんが、それまでフェラーリやランボルギーニ、ポルシェなど現代の高性能車を楽しんでいた若い人たちの中からクラシックカーへの興味と関心を抱く人が増えてきている印象を受けます。それも、単なる憧れにとどまらず、実際に所有して、走らせて楽しみたいという若い企業家などから相談を受け、実際にロールスロイスやベントレーなどのクラシックカーを販売しました。

「クラシックカーの相場がどんどん値上がりしているのは知っていました。株でも同じことが言えますが、急に上がったものはいつか必ず急に下がるのです。ですから、クラシックカーに興味を持っていたのですが、“現在の状況は投機的に過ぎるのではないか?”と自分なりに警戒していました」
この人は、飲食関係で成功した30代の男性です。

「コロナによって、その相場も落ち着いてきたと聞きましたが、最初はどこにどうコンタクトして良いかわかりませんでした。新車だったら、同じディーラーがいくつものブランドを手掛けていたり、セールスパーソン同志の横のつながりもあって、買うことは簡単です。でも、クラシックカーは敷居が高い」
彼は、私のお得意さんのロールスロイスを個人売買で買い、その方から「このクルマのことはすべてワクイに任せておけば間違いない」と紹介されてきました。

たしかに、そう思われるのも無理はありません。敷居は低くありませんね。この方は、はじめのうちはクラシックカーの楽しみ方について期待と違っていたように思われていたようなのですが、私がひとつずつ説明させていただく中で開眼され、大いに堪能されています。最近になって、もう一台持ちたいと言っていましたが、私は“焦らなくても大丈夫ですよ”と進言した次第です。

そして、もうひとつの動きとしては、「こういう時期には、手放されるクルマが少なくない。掘り出し物はないだろうか?」と探す人たちです。コロナ禍によって、クラシックカーを手放そうとする人たち、逆に手に入れようとする人々。それぞれ、さまざまな思惑が交錯し、私のところには双方から連絡が寄せられます。

私は、「クラシックカーのオーナーは一時預かり人に過ぎない。然るべきタイミングで、次の人に継承するべきだ」という自らにも課した原則にもとずいて、他のお客さまをご紹介したり、ワクイミュージアムで買い取らさせていただいたりしています。欲しがっている人には、ミュージアムの売り物をご案内したり、ご希望を伺って一緒に探したりしています。世の中が大きく変わろうとしている時に、自分の大切なクラシックカーをワクイミュージアムに託そう、あるいは購入しようとコンタクトをいただくのは大変にありがたい思いで感謝するばかりです。

そういう私もクラシックカーのビジネスを始めて30年が経ちました。最初の頃は、アメリカやイギリスでクラシックカーを譲ってもらおうとしても、「日本に行ったら、クルマがどうなってしまうかわからない」とか「日本にはクラシックカーのカルチャーがないから、手放すわけにはいかない」と取り付く島もありませんでした。あの時の悔しさをバネにして、今日までやってきました。あの頃から考えれば、日本には成熟したクラシックカーカルチャーが存在するようになったと胸を張ることができるようになりました。

2016年4月からCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)グループ傘下となったことで、会社の資金繰りなどを気にすることなく、ほんらい私がやるべき仕事が明確になり、改めてお客さまとのコミニュケーションやメカニックの技術の伝承などにそれまで以上の時間とエネルギーを注ぐことができるようになりました。10年来のお得意さまでもあったCCC社長兼CEOの増田宗昭さんと当ミュージアムの将来の展望などを話し合ううちに「日本のクルマ文化をもっと豊かにして行こう」とピタリと意見が一致し、私は経営を退き、館長としての仕事に集中できることになりました。

私も、そういつまでも同じペースで動けるわけではないでしょうが、これからも初心を忘れず邁進していく所存です。みなさまには、引き続きよろしくお願いいたします。今まで、お読みいただきありがとうございました。

(構成:金子浩久)

(最終回 了)

 

 

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