涌井清春ヒストリー
「私の半生」

第7回

自動車メーカーがクラシックカー復刻に取り組む意味とは?

先日、ベントレー本社がとても興味深いプロジェクトを発表しました。

1929年にティム・バーキン卿の依頼によって4台だけ製造された「41/2リッター・ブロワー」を現代の技術によって蘇らせるというものです。当時の “ブロワー・ベントレー” は 当ミュージアムでも一台所蔵 していますが、このプロジェクトで造られるのはコンセプトカーや展示専用というわけではなく、エンジンなどのメカニズムもまったく同じものを造って搭載されるので、実際に走ることができます。

そして、それを2年間で12台を限定生産し、実際に顧客に販売するというから驚きです。「継続」の意味を込めた「コンティニュエーションシリーズ」の第1号車だとベントレーは発表しています。

製造方法が、また興味深い。ベントレーが所有しているシャシー番号HB 3403を分解し、各パーツを3Dスキャナーで測定し、丸ごとデジタルデータ化します。

次に、オリジナルモデル製造時に使用された1920年代の金具と治具、伝統的な工具を用いて組み立てるのに加え、最新の製造技術を使用して12台分のパーツを製作します。それらのパーツをベントレーの熟練工らが組み立て、新しいブロワーが誕生するという流れです。ベントレー本社は、次のように発表しています。

 「12台の復刻モデルは、メカニカルな面もルックスの面も、そしてオリジナルが持つスピリットでさえも、可能な限り当時のままを引き継ぎます。安全性に関してのみ、目立たない部分でわずかに現代のシーンに合わせた変更が加えられます」

バラバラにされたオリジナルモデルは必要に応じて丁寧にメインテナンスを加えられた上で元の姿に戻されるそうです。

これは画期的ですね。これまでもジャガーやアストンマーティンなど、自動車メーカーが過去の自社製品を復刻する例はいくつかありました。

それらと較べて、このコンティニュエーションシリーズのブロワーは徹底しています。さすが、ベントレーです。

ベントレー自らと、スペシャリストであるマリナーとが有する伝統的なクラフトマンシップだけでなく、そこに現代的な最先端テクノロジーである3Dスキャニング技術を組み合わせたところに大きな意味と意義とが込められていると思いました。

私がここで言うまでもないことですが、これからの自動車はCASEという4つの課題を克服しながら急速に進化していくと言われています。

CASEとは、CはConnectivity(コネクティビティ、インターネットへの常時接続)、AはAutonomous(運転の自動化)、SはSharing(シェアリング)、EはElectrification(電動化)です。

ニュースで聞いたことのある人も多いことでしょう。

4つの課題はそれぞれデジタル技術とインターネット接続の進化によって推進されるものですが、それによってドライバーの負担と事故と渋滞などが減り、大気汚染が減少します。

自動車というものが生まれて以来、宿命的に付随してきたネガティブな要素が劇的に解消されるわけですから、この流れに反対する自動車メーカーはありません。私も大賛成です。移動手段としての自動車が大きく進化するわけですから反対する理由がありません。

ひとりのクラシックカーを愛するものとしても大歓迎です。これからの自動車が、純粋に移動のためのものと、趣味の対象とに明確に分かれるのはとても好ましいからです。

機械遺産、産業遺産としての自動車の価値を次世代に継承していくために、伝統的な技術とデジタル技術を併せて用いて復刻を行うのは意義深いことです。

ベントレーをはじめとする自動車メーカーが過去の製品を復刻する意図も、まさにそこにあるのだと考えることができます。

CASEの時代となっても、140年近くを誇る自動車の歴史と伝統を継承することを大切にしようとしています。

今後、アップルやグーグルのようなデジタル関連企業がCASEを足掛かりにしてクルマを造るようになるかもしれません。そうなった時を見越して、「クルマはクルマ屋に任せろ!」と言わんばかりに気概を示しているように私には見えます。

このブロワーはコンティニュエーションシリーズの第1号車だと謳っているので、いずれ第2号車、第3号車が現れてくるのかもしれません。

デジタル技術でクラシックカーを蘇らせるとは、なんともロマンチックかつクールなプロジェクトではないでしょうか。ワクイミュージアムでは、コンティニュエーションシリーズに注目し続けていきます。

自動車メーカーがクラシックカーを復刻するようになった時代に、あらためて当ミュージアムには何ができるのでしょうか?

それは、当ミュージアムの誇る7人のメカニックたちによるレストア技術とクラシックカーを乗って楽しむ企画力になります。

レストア技術については、言うまでもありません。当ミュージアムで販売したクルマだけでなく、多くのクラシックロールスロイスやベントレーが点検や修理を受けています。オーナー様は当ミュージアムのメカニックたちの幅広い知見に全幅の信頼を置いて下さっています。

ロールスロイスとベントレーに限った話ではありませんが、CASEという言葉が一人歩きする前から、現代のクルマはすでにデジタル技術によって制御されています。それに対してクラシックカーはアナログの塊です。水と油ぐらい違います。

ですから、クラシックカーを修理できる工場とメカニックはどんどん限られた存在になっていっています。設備も違えば、経験も違うからです。これは良し悪しの問題ではありません。

したがいまして、当ミュージアムの役割はますます大きくなっていくと自負しています。30年の経験がそれを裏打ちしています。確かな技術力を世界に示したいと7人は意気込んで仕事に取り組んでいます。

企画力というのは、クラシックカーを走って楽しむお手伝いをさせていただいています。クラシックカーの素晴らしさを感じていただける内容のイベントをいろいろと企画しています。近いところでは、11月22日に「古きを訪ねて」というツーリングを開催します。

当ミュージアムの所在地である加須を出発し、益子を訪ね、鹿沼でディナーパーティを行います。

そのディナーは、1928年にル・マン24時間レースに優勝したベントレー・チームがロンドンのサヴォイホテルで行なった凱旋パーティのディナーのメニューを再現したものなのです。

私は、海外のオークションで当時のメニューを競り落とし、所有していたので、そのディナーをぜひみなさんと楽しみたいと以前から計画していました。

クラシックカーを販売するだけでなく、走って楽しんでいただくお手伝いに今後もより一層力を注いでいく所存です。

(構成:金子浩久)

(第7回 了)

 

 

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