涌井清春ヒストリー
「私の半生」

第1回

クラシック・ロールスロイスとベントレーに魅せられて

クラシックのロールスロイスとベントレー専門店として、これまで30年間営業を続けてきました。

体力の衰えと新体制への移行のために第一線を退き、2019年4月から相談役・ミュージアム館長として新たなスタートを切ったところです。

お客様に喜んでもらいたいという一心だけでがむしゃらに進んできました。気が付いたら30年も経っていたというのが正直なところです。

私はあまり信心深いほうではありませんが、ありがたいことにそうした30年間を神様が見ていて下さったのかもしれません。一線を退くと皆様にお知らせしたちょうど一か月後、大きなプレゼントを天から授かったのです。

なんと、8月にアメリカのペブルビーチで行われるコンクールデレガンスの主催者から招待状が送られてきたのです。このコンクールデレガンスは、世界の数ある伝統的なクラシックカーのイベントの中でも、一、二を争う規模と内容のものであることはとても有名です。そこには、次のように書かれていました。

「ワクイミュージアムが所蔵している1921年のベントレー3リッター Gairn Tourerを招待したい」

ペブルビーチで行われるコンクールデレガンス2019の招待状を掲げる涌井清春
ペブルビーチで行われるコンクールデレガンスの主催者から送られた招待状

今年2019年はベントレー社は創立100周年を迎えます。世界中から、ベントレー100年の歴史を彩る逸品中の逸品が集まります。その中の一台として、我々のコレクションが選ばれたのです。これは大変な名誉であると自負しています。

当該のページで詳しく解説していますが、このクルマは1921年に製造された時のボディがそのまま維持されています。長い間に、ボディが載せ換えられてしまうことの少なくないベントレーですが、その点でとても貴重なものです。その点をキチンと評価してもらえたことに二重の喜びを感じます。

もちろん、コンクールデレガンスには喜んで参加いたします。ワクイミュージアムの収蔵車が海外のイベントに参加するのは初めてのことです。いきなり、一流中の一流であるペブルビーチですので、ちょっと緊張しないでもないのですが、同時に私は大きな感慨を抱いています。

30年前に商売を始めた頃、ヨーロッパやアメリカに仕入れに行った時のことを思い出します。業者やコレクターを訪れ、具体的な商談に入ろうとすると無下に断られたことが何回もありました。

「日本にはクラシックカーを愛好する文化がないから、クルマは売りたくない。貴重なクルマがどうされてしまうかわからないからだ」

悔しかったけれども、反論できませんでした。たしかに、その頃はクラシックカーを愛好する文化は日本にはありませんでした。世間の理解もゼロに等しかった。正確には、ごく少数の熱心な愛好家がいて、いくつものクラブも盛んに活動していたのですが、一般的とは呼べませんでした。

本場である欧米から見たら、存在していないのに等しいありさまでした。それは私も認めます。当時の日本の現状を振り返ると、今とは違っていました。

「いや、そんなことはない。日本にも、あなたたちと変わらないクラシックカーを愛好する文化があるんだ。だから、売って欲しい」

胸を張って、そう言いたかったけれども、言えませんでした。その悔しさは、今でも良く憶えています。30年間の私のモチベーションというのは、その悔しさをバネにして維持し続けてきたのかもしれません。

でも、今は言えます。私が言わなくても、日本のクラシックカー文化が成熟してきていることは誰もが認めるところでしょう。ミュージアムを開放する毎週日曜日の来館者や、各種のイベントの参加者も増えています。

我々が第1回から参加している日本版ミレミリアは回を追うごとに盛況ですし、さまざまなイベントも多くの参加者を集め、定着しています。

また、今までなかった最近の大きな傾向として、海外の、特にアジアからのお客様が急速に増えてきました。紹介を受けて、中国のロールスロイスのセールスマンの団体見学を受け入れたことが数回ありますし、アジア各国から個人で来館される方も増えてきました。

英語や中国語のEメールによる問い合わせが来ない週はありません。販売しているクルマについてだったり、来館アクセスに関するものだったり、内容はさまざまです。

日本にクラシックカーの文化が形成され、それが成熟を進めていることは私たち日本人が認めることができるようになりました。加えて、海外からもそのように見られるようになったのです。

いま、私は自信をもって日本のクラシックカー文化について語ることができます。

「文化がないから日本へは売らない」と言われた30年前のあの悔しさが、ようやく晴れた想いがしました。30年間で大きく変わったのです。

クラシックカーに限らず、これまでの日本の自動車産業は欧米の後を追い掛けていることで生きてきました。後追いや模倣でなんとかなっていたのです。

クラシックカーの世界も世の中の変化と無縁ではないということです。クルマはクラシックでも、ビジネスに取り組む姿勢は古いままで良いということはあり得なくて、進取かつ柔軟でなければならないと自戒を込めました。

いずれにしろ、ワクイミュージアムも第2ステージに進みます。これまでの実績を踏まえつつ、クラシック・ロールスロイスとベントレーの魅力をより多くの人々に提供できるように努めていく所存です。ご支援のほど、よろしくお願いいたします。次回からは、私がどのようにして商売を始め、ミュージアムを作り上げてきたのかを振り返っていきます。(構成:金子浩久)

(第1回 了)

 

 

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