ロールスロイス&ベントレーの歴史

Post War:第二次大戦後篇

チャプター22「サイレント・スポーツカーの復活」

ロールスロイス&ベントレーの歴史
ロールスロイス&ベントレーの歴史

R-Rシルヴァー・スピリットのベントレー版として、1980年に発表されたミュルザンヌは、かつてW.O.時代のヴィンテージ・ベントレーがル・マン24時間レースで大活躍した歴史にあやかったネーミングがされていたが、その実はプレステッジサルーンの最高峰、ロールス・ロイス・シルヴァー・スピリット/スパーと何ら変わりのない内容を持つ、ジェントルな超高級サルーンに過ぎなかった。しかし、その2年後となる'82年、ル・マンのコーナーの名前に相応しいモデルが登場することになる。それが、ベントレー“ミュルザンヌ・ターボ”。L410系V8OHV6747ccユニットに、米・ギャレット・エアリサーチ社製TO4B型ターボチャージャーを装着する。トランスミッションは、GM400ターボハイドラマティック3速ATが組み合わされる。出力はR-R/ベントレーの伝統で未公表ながら、デビュー時のプレゼンテーションでは2.2トンを遥かに超える超ヘビー級ボディを、ル・マンの名物“ユーノディエール”ストレートにて実際に140mph(約225km/h)でデモンストレーション。その素晴らしいパフォーマンスをアピールして見せた。ちなみに、そのユーノディエールのストレートエンドに控える名物コーナーこそ、件の“ミュルザンヌ”なのだ。

ミュルザンヌ・ターボはその驚くべき動力性能から、かつての「ブロワー・ベントレーの半世紀ぶりの復活」という手放しの賞賛も受けることになるのだが、あり余るほどパワー&トルクに、スタンダードのミュルザンヌと大きく変わらない足回りやブレーキとのマッチングには少々無理があったようで、1985年にはそれらの問題をすべて解決した“ターボR”と、そのロングホイールベース版たる“ターボRL”がデビューすることになった。ターボRの“R”は、「Roadholding(ロードホールディング)」の頭文字。その名のとおり、ロードホールディングとハンドリングに重きを置いたスポーティサルーンである。ミュルザンヌ・ターボと比べるとサスペンションのセッティングは明らかに低く堅く、ステアリングもずっと重くセッティングされていた。もちろん、ブレーキの強化についても怠りない。また大型のエアダムスカート、ボディ同色のグリルシェルなど、迫力たっぷりのスポーティなルックスも魅力的だったようで、ベントレー再躍進の最大の功労者となるのだ。

1988年には、北米や日本市場だけでなく、ヨーロッパ市場でも厳しさを増してきたエミッションコントロールに備えて、エンジンの燃料供給が従来のキャブレターからボッシュKジェトロニック型インジェクションに変更されることになった。外観では、R-Rシルヴァー・スピリット系と同様に矩形だったヘッドライトが丸型4灯(内側の2灯はドライビングランプ)に変更されたのが最大の特徴。この時期からターボRにのみ標準装備となったエアロパーツと合わせて、そのアピアランスにはさらなる迫力が加えられることになった。

さらに1990年になると、上記のフューエル・インジェクションが同じボッシュのモトロニック・システムに換装された上に、そのほかすべての機能がコンピューター管理される最新モデルにアップ・トゥ・デートされることになるが、R-R版の姉妹車のように車名を変更(末尾に“Ⅱ”を追加)することなく、引き続きターボR/RL(LWB版)とだけ呼ばれていた。そして、このターボRの世界的大ヒットの功績によって、一時は10%以下まで落ち込んでいたベントレーの対R-R比率は、大幅に回復されることになったのである。

さらに、並のターボRでは不足という贅沢極まりないミリオネアのため、ベントレーはさらなるパワーアップを施したリミテッドエディション、“ターボS”を’94年に限定生産している。旧来のV8OHV・6747ccユニットにギャレット・エアリサーチ社製TO4B型ターボチャージャーを装着するまではターボRと共通だが、さらにターボSでは、英国を代表するレーシングエンジンサプライヤー、コスワースがターボF1時代に築いたターボテクノロジーを生かしたエンジンマネージメントシステム“ザイテック”を採用していた。そのパワースペックは、この時期まで残っていたR-R社の伝統に従って未公表だったが、ちまたでは400Hp超級と称されていた。ブレーキは17インチの大径ホイールを前提にしたコンティネンタル用とされ、サスペンションも再び見直しを受けることになる。ターボSは100台のみが製作され、世界中の裕福なエンスージアストのもとに納められることになった。

デビュー10周年を迎えた’95年には、ほかのR-R/ベントレーのサルーンとともに、ベントレー・ターボR系も大掛かりなマイナーチェンジを受け、最終モデルとなる“NewターボR”に進化を遂げた。’94年までのターボRに相当するモデルである。また、上級の限定エディションとして、“ターボRT”も用意された。’94年のターボSの経験が生かされたエンジンは、コスワースの“ザイテック”を採用する。初めて公表された404Hpというパワーもさることながら、トルクは実に81.6kgmという途方もないものであった。ホイールベースは、原則的にターボRLと同じ3160mmのロングバージョンに限定された。そして1998年、アルナージが販売されるまでのわずかな期間に、後期型コンティネンタルT用のハイスペックエンジンを搭載する“ターボRT”が限定生産されて、ロールス・ロイス傘下時代の純血種ベントレー・ターボは、その16年の歴史に幕を閉じることになったのである。

再び話は1984年まで遡るが、ロールス・ロイスのシルヴァー・スピリットに相当する標準サルーン、ミュルザンヌをベースとした廉価版として“エイト”が追加されることになった。エイトは、結果として当時のR-R/ベントレーの最廉価モデルとなったが、同時に元来スポーツカーメーカーであったベントレーのブランドに相応しく、幾分スパルタンに仕立てたスポーティサルーンでもあった。そのサスペンションのチューニングは、圧倒的にハイパフォーマンスなターボR譲りの“ロードホールディング”タイプで、完全にシャーシーがエンジンに勝つセッティング。ひとたび走らせてみれば、サイズからは考えられないほどの軽快なハンドリングで、完全なドライバーズカーであることがわかるものであった。上級モデルのミュルザンヌに用意されたロングホイールベース版が設定されないのも、ドライバーズサルーンの資質に特化したことの現れであろう。加えて、旧き良きヴィンテージ・ベントレーを思わせるメッシュグリルなど、スポーティかつクラシカルなルックスも「コニサー(通人)好み」で、当時のマーケットに於ける評価も好意的なものだったことから、現在ではターボRと並ぶベントレー躍進の原動力と認知されている。

1988年には、エイトのNAエンジンも燃料供給が従来のキャブレターからボッシュKジェトロニック型インジェクションに変更されることによって、実質的なパワーが拡大された。さらに'90年には、インジェクション・システムが同じボッシュの“モトロニック”に換装されるとともに、そのほかすべての機能がコンピューター管理される最新モデルにアップ・トゥ・デートされるが、ターボR/RLの例と同様、引き続きエイトとだけ呼ばれる。

そして、従来のミュルザンヌとエイトを統合したベントレーのベーシックモデルとして、1992年には“ブルックランズ”がデビューした。ブルックランズとは、ロンドン近郊に作られた世界最初のクローズドサーキットの名で、かつてW.O.時代のヴィンテージ・ベントレーが同サーキットにて開催された“ダブル・トゥエルブ”などのレースで大活躍した歴史にあやかったもの。エイトと同様、単なるベーシックモデルというよりは、元来スポーツカーメーカーであったベントレーのブランドに相応しく、スパルタンな雰囲気に仕立てたスポーティサルーンである。ラジエーターグリルは当時人気の高かったターボRと同様の仕立てになるが、旧エイトのクラシカルなメッシュグリルを愛好するエンスージアストには少々不評だったようだ。エンジンは伝統のV8OHV・6747cc自然吸気ユニットを踏襲、ようやく4速に格上げされたGM700型オートマティック・トランスミッションと組み合わされたが、ブルックランズではセレクターがフロアに移された。エイトと同様、巨大なサイズを感じさせない軽快なハンドリングを誇る、完全なドライバーズサルーンであった。

ブルックランズは、デビュー当初から魅力的なスポーツサルーンとして高い評価を得ていたが、’95年には早くもほかのR-R/ベントレーのサルーンと時を同じくして大掛かりなマイナーチェンジを受け、スポーティな資質をさらに高めた最終バージョンたる“ブルックランズR”へと進化を遂げることになった。エンジンは旧来のV8OHV・6747ccユニットだが、ブルックランズRでは遂にターボチャージャーを装着するに至った。しかし、ターボRやコンティネンタルR用と比べると、インタークーラーが省かれると同時に、パワーよりも低/中速域のトルクを優先したチューンとされていた。とはいえ304psのパワー/61.7kgmのトルクともに、実は1985年のデビュー当時、まだ出力が未公表だった時期の最初期型ターボRとほとんど遜色のないもので、NA時代から4速化されていたオートマティック・トランスミッションの効力も相まって、2.4トン近くにも達する超ヘビー級ボディを過不足ない速さで走らせることができた。また最終バージョンのブルックランズでは、外観ではターボRと同様、フロントスポイラーと一体化された樹脂製バンパーに変更されたのが特徴。ロールス・ロイス版はシルヴァー・ドーン/スパーともに3160mmのLWBに統一されたが、ブルックランズは最後まで3060mmのショート版が中心とされていた。

※生産台数(推定)
ミュルザンヌ・ターボ:SWB 498台/LWB 18台(1982-85)
ターボR:4653台(1985-95)
ターボRL:1211台(1985-95)
新ターボR:543台(1995-98)
新ターボRL:823台(1995-98)
 
エイト:1736台(1984-92)
ブルックランズ:SWB 1208台/LWB 172台(1992-96)
ブルックランズR:SWB 211台/LWB 18台(1996-98)

(第22章 了)

(監修:涌井 清春  資料提供:高山 ゆたか  編集:武田 公実)

 

 

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